三井化学株式会社
三井化学株式会社における労働安全衛生の過去と未来
三井化学株式会社
本社健康管理室
室長 統括産業医
土肥 誠太郎様
導入背景・課題
1997年に旧三井石油化学工業と旧三井東圧化学が合併するにあたり、それぞれの企業に存在した健診システム(今のようにLANで繋がってなく、スタンドアローンのような感じだった)について、2つの会社があれば健診の方法や考え方が違うため、ひとつに統合しようと1998年から検討を始めました(1999年に稼動開始)。
導入の経緯
一番は「特殊健康診断をきちんと整理できるシステムがほしい。」と言うこと。
当時、いくつかのシステムを検討したが我々が考える特殊健康診断が実現できるシステムがなく、「Arms Enterprise」が一番優れているように思えました。
◆導入の理由◆
第一に、「Arms Enterprise」は特殊健康診断が整然と処理でき、なおかつ我々が考える特殊健康診断が組める点です。
マスターを組み合わせることで我々が理想とする健康診断が実現できると思いました。
第二に、判定の考え方が我々の考え方と似ていた点です。
健診結果データから最終的なコメントを作り出すプロセスや一般健康診断についても、もともと我々で作ったシステムに非常に似ていました。基本的な設計や機能に抵抗があれば導入には至っていませんが、我々の考えと近いものを持っていたためスムーズに考え方を共有することが出来ました。
第三に、クライアントサーバーシステムとしては、当時比較的低価格なシステムであった点です。
カスタマイズした部分もありますが、それでも他社に比べハード・ソフトウェアともに低コストでした。
◆導入後の効果◆
第一に、「システムを統一する = 仕事のやり方を統一する」ことができることです。
健康診断から発生する定期健康診断の事後措置が、ひとつの共通した基盤の中でやることになり、同じような判定の仕方が出来るようになったため本社や事業所の健診の判定にバラツキが減り、一定しました。
第二に、予防接種歴や病歴など通常の定期健康診断ではあまり扱わないような情報も登録するようにしたため、社員個人の健康状態がわかりやすくなったことです。
健康診断のデータだけでは社員個人がイメージできないため、きちんと病歴を入れて海外での予防接種歴や、業務歴(所属歴)が一覧でわかるということは社員個人を全体で見るうえで非常に役立つ部分であり、これが全社的にできるようになりました。
第三に、単純な健康診断のデータだけでなく、社員個人の健康情報をある程度総合的に「Arms Enterprise」に登録する仕組みが出来たため、数値のみならず社員個人を全体的に見られる効果に繋がっていると思います。
◆システム統合時の苦労◆
最低限、健康情報のデータベースとしては均一なものに統一する。ただし処理の方法(入り口)を、健診で実施するか、我々で実施するのか、それともMIX型とするか。また、結果通知は「Arms Enterprise」から出力したものを使用するか、それとも健診業者が出してきたものを使用するのか、我々の情報発生に対するインターフェースや社員が健診データに接するインターフェースなどは、細かく規定せずにデータ-ベースに存在している情報と我々の思考パターンを共有することを目指したので、各事業所でやり方が違っても良しとしました。
こうした思想で始めたため、やり方を変えることに様々な抵抗は生じましたが各事業所が自分たちの使いやすいシステムを実現することが出来ました。
現在、「Arms Enterprise」のシステムをフルスペック(データ登録からアウトプットまで)すべてを使用している事業所もあれば、データーベースに近い使い方をしている事業所もあります。そういう意味では統合する際に共有部分を決めたので比較的、抵抗は少なかったと感じています。
◆Drasticな変化と効果◆
第一に、旧三井石油化学工業の思想を他の事業所と統一したことで、判定の仕方などはドラスティックに変わりました。これはシステムに対する考え方ですが、同じ方法で同じデータベースの中に様々な情報を登録し、なおかつ単純な健診データだけでなく社員個人の病歴や業務歴・所属歴を含めてトータルに整然と見られるようになりましたから、これは非常に大きな変化であり効果だったと言えます。
第二に、「Arms Enterprise」の導入をきっかけに個人票をペーパーレス化しました(現在も一部紙面も持っている)。そのため各事業所の健康管理室には紙のデータやそれ以外のサブデータも存在しますが真のデータは「Arms Enterprise」の中にあります。またペーパーレス化したことで、以前は社員の異動とともに個人票をリレーゲームしていた手間が省けたことはシステムを導入した変化であり大きな効果でした。
◆費用対効果◆
これは難しいですね。
導入する際に個人データをすべてシステムに登録して一定の権限をもった者がデータを共有化することを最大の目的としたため、正直に言うと業務の効率化はあまり考えていませんでした。システムでは紙が自動的に出てくることや、異動に伴う個人票を送らなくて良いという効率によって事務作業を減らすことは出来ますが、費用対効果と言われると難しいですね。
◆今後の展望と内容◆
最終的には電子カルテというイメージになれば良いと思っています。
今でも紙のデータは一部存在しているので、最終的にはすべてがデジタル情報の中にあるほうが良いと思っています。
「最終目標は?」と聞かれると「企業にある健康情報をすべてシステムに取り込み、どの事業所であっても一定の権限を持つ全員が情報を共有できる。」これが今後したいことです。
まず第一弾として、保健指導の記録を残すようにすることです。そして次の段階では、それぞれの法律に対応して我々の使いやすいシステムに作り上げること。現在のご時世でいけば過重労働や特定健診、保健指導を現在のシステムに組み込んでいくことが今後の展望の総枠になるでしょう。
三井化学としては細かな問題点や改善点はあるものの、大枠としてはやはり過重労働でしょうね。
残業時間を自動的にシステムに取り込み、ある一定の基準や他の要素を組み合わせて適切な面接対象者を抽出し、面接結果を「Arms Enterprise」に登録する仕組み。現在の面接とは労働安全衛生法に則り記録に残し、結果を返さないといけないため、過重労働について一連の流れでシステム化できれば、過重労働面接が非常に楽になります。多くの企業では労働時間を調べて、膨大な社員の中から選別する方法を考えているものの、選別するうまい方法がないから全員を面接しなくては・・・。と言っていますが、例えば問診票を配り自動的にアンケートを取り、アンケートの得点が高い人だけを面接指導対象者と自動的に仕組めればとっても楽になります。
理想としては、残業時間が入ってきたら自動的にある一定の問診票が社内メールで配信され、メール返信後に点数化されてストレス度の高い人物の面接時間や例えばメタボの状況など合わせてリスクを考えて自分たちで面接したい集団を捉える。そして、「あなたは面接の対象だから来てください」と連絡することが実現できれば事務作業は格段に減らせます。これは望ましい姿ではありますが、過重労働については今後もまず間違いなく続きますから、システム化されることで現場にいる産業保健に携わっている者にすれば非常に有難いことです。
また、これと同じようなことを考えているのが特定保健指導です。特定保健指導は健康保健組合があり費用が出やすいことから先行して進んでしまいましたが、過重労働も実施したいですね。
◆今後のシステム活用◆
社員と「Arms Enterprise」のインターフェースは直接的にあまり関係ありませんが、もう少し先のシステムとしては、「Arms Enterprise」にある情報をどうやって社員に見せるか?という視点があります。
第一に社員に見せるということは、我々が説明するために見せたい。例えばグラフ化する、リスクを表示する、順位を表示するなど様々な方法があります。つまり対象者の自覚を促すために、もしくは改善方法を促すために意図して見せる。という見せ方がひとつあります。
一方で、健康管理データは我々が抱え込んでいますが、本来は社員個人個人のものだから、社員が見たいときに見られるのが本当の姿なので、個人に見てほしい部分は特定のページを設けて、社員番号入れアクセスして見られればもっと望ましい。
更にもっと欲を言えば、今は事業主に健康管理義務があるのが法律の考え方で「事業主は従業員の健康管理診断をして、その情報収集して必要な場合には就業上の配慮をしなさい」というのが基本的な考え方ですが、その情報を握っているのは我々だけです。この場合、現場の課長や部長はAさんの健康状態を詳しく知らない。知らなければ何も配慮ができないため、何かしら知らせる手立てはないかと思います。
例えば我々が判定しながら、注意を促したい社員がいた場合は、そのこと事態を自動的に部長は部下の個人情報として見られる。細かな病歴とかは伝えないまでもこういったことが出来れば、安全配慮義務を果たしやすくなります。
これは個人情報を扱ううえで違和感を覚えるかもしれませんが、人事情報の一部、見せたい情報だけを公開することが出来れば、更に情報の活用として広がります。そうなると人事情報の一部にならないと難しいですけどね。
管理者と社員個人に見せたい情報を区別しながら、自由に見せることが必要です。企業の視点での活動と社員個人に健康になってもらうことが重要ですから、その二つが方策としてあります。ただし、いろんなことが出来るシステムは様々な設定が必要で制約も増えて運用が難しくなっていくため、どこで妥協するかというのは難しいところです。
ほとんどの場合がそうですが、今の健康管理システムはあくまでも個人を対象にしているため、健康管理を対象にしている側面と社員個人を対象にしている側面があります。本来、対象が組織にならなければなりません。
例えばストレス調査の結果や健康診断の結果があり、その他何かのアンケート結果などが組織ごとではどうなっているのかが見えてくると本当は予防がもっとしやすくなる。ところが現在はあくまでも我々と個人をつなぐツールになっていますが、我々と組織をつなぐツールに発展することでシステムが得意な解析が出来、もっとシステムの強みが出ると思います。
本当はアンケート調査や職場の環境など、職場単位で比較できたり、組めたり、集団、職場、会社、海外と集団を切り分けながらデータをもっといろんな扱い方が出来れば、システムと集団・組織という対応で動けるようになり、もっと集団的な予防がやりやすくなります。これらの構成を作り上げることが出来れば最良だと思います。

